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閏年にようやくなんだ

「ヤマト、俺と一緒に芝居してくれない?二人芝居。」


新宿にある居酒屋チェーン店で先輩は、煙草を燻らせ僕に言った。まだ喉がビールを待ってた夏だった。


先輩は煙草に火をつけ、天井に煙を吹きかけながら、穏やかに僕を誘ってくれた。


煙草の煙を雲にしてた先輩は役者だ。そして2012の一月に引退する。いや、もうした。


その先輩の最後の舞台に、僕を誘ってくれた。しかも二人芝居に。


まだ扇風機がぐるぐると回る暑い日に、僕は宜しくお願いしますと、ジョッキを傾け乾杯した。



先輩は、ある劇団の最古参だ。


その劇団は全くの無名から、今では東京のトップランカーにまで駆け上った存在だ。

きっと多くの素敵な出会いや別れ、嬉しい上昇や変わらぬ現状。たくさんの事を歩んできたはずだ。


それなのに僕を選んでくれた。まだまだな僕を。


半袖から長袖になった頃、台本が出来た。でも、その台本は書き直し書き直し、また書き直し。


いつの日か長袖からマフラーを巻き出し、ダウンを羽織る頃、稽古も本格化した。


色々と悩みぶつかり、乗り越えまたぶつかる。サンタの出勤も、紅と白の歌合戦も、日本が休みの三日間も全て稽古した。



2012.01.06。いよいよ幕が上がった。先輩、最後の人生祭りの幕が。


舞台は生き物。生もの。呼吸が合う時も、合わぬ時も。何もかもひっくるめて舞台。僕にもっともっと腕があったら、毎回伝説を残せてたんでしょう。

先輩スイマセン。


最後の人生祭りはたったの四日間。2012.01.09、本当の本当の最後の幕が。


この舞台の最後は、先輩がお客さんに挨拶をし、それをもってこの舞台は終幕する。


いよいよその挨拶の時間に。セットは履けさせ、舞台には先輩ただ一人。薄く流れるはチェンミンの音。たった一本のライトが先輩をさす。


上手袖には僕と他の先輩役者達。皆おっさん。けど、全員が声を殺し、涙を見せまいと我慢し、だけど流れる涙。

泪橋逆さに渡れるなんて出来ませんでした。


こうして先輩の最後の人生祭りの幕は閉じた。打上げはビックリする程に高らかに笑ってた。儚い気持ちはどこにいったんだ。ビールで呑み込んでしまったのか。


それ程、笑って呑んでまた呑んで。



先輩、お疲れ様でした。
先輩、色々教えてくれてありがとうございました。
先輩、誘ってくれてありがとうございました。
先輩、二人芝居してくれてありがとうございました。

感謝してます。




2012.01.09に舞台は終わり、本日2月29日。閏年全開日。ようやくこの文を書きあげれました。

四年に一回の日に降り積もる雪の日に。



追伸。
先輩、僕、桜咲く頃に舞台やります。あなたが10年前にやった舞台ですよ。



閏年にようやくなんだ_b0206552_8155762.jpg

by hey-yamato | 2012-01-12 18:35

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